【特別公開】長谷川優貴プロデュース公演『口』劇評

CHARA DE制作で公演した長谷川優貴プロデュース公演『口』の劇評を、映画やドラマの評論を行う「コンテンツ全部見東大生」大島育宙さんに劇評を書いていただきました。





長谷川優貴さんプロデュースの公演『口』をオンラインで拝見した。

何の公演かと聞かれても答えられない。それはきっと、私が演劇文化に疎いからではない。

乱暴に括ってしまえば「コンテンポラリー演劇の実験的作品」ということなのだが、その枠に収めるには意味を持ちすぎ、どうしてもはみ出す「作品」としか言いようのない公演だった。

いや、「公演」というのも不適切かもしれない。オンライン視聴者が書き込んだ単語を「天」からの言葉と位置付け、それを舞台とも客席ともつかない中間地点にいる「シャーマン」が役者に伝える。役者は事前に決められたセリフと「天の言葉」をミックスさせ、即興でセリフを仕上げながら演じる。客が安全圏にいるのが「公演」だとするならば、こちらはむしろ「掲示板」に近いとすら言える構造だ。

我々がこれまで見てきた無数の「即興劇」というチャレンジ、そしてそこに感じる一抹の居心地悪さ。これは即興だからね、お話が成立しただけでも凄いよね、という暗黙にして自明のハードルの下がり方。そしてお題を投げ終わったら踏ん反り返り、「さあどうだ、お手並み拝見」と文字通り「主客」の「客」に徹してしまえる見世物小屋的安心感。それらの居心地悪さは目が肥えすぎた我々にとってもはや心地良さになりかけているが、それを許さないのが「シャーマン」の位置の曖昧さだ。生の客席で見ていたら、舞台とも客席ともつかない「え、こんなところにスタッフさんいていいの?」という場所にいる人が突然大声で単語を発する(スタッフではない)。オンラインで見ているとその異物感はより顕著だ。喋っている演者にクローズアップしているカットのうちはまだいい。画面の外から時折聞こえる「シャーマン」の声はナレーションに聞こえる。だが舞台全体を俯瞰する画角になると途端、演者の誰が喋っているか追いかける選択肢の中に、顔を舞台に向け、こちらに背を向けている「シャーマン」が入ってくる。シンプルな舞台の中でとんでもない情報量が飛び交う。

そして一人一人の村人(俳優)は決して顔を向き合わせることはない。無論、コロナへの配慮なのだが、セリフ上もどの人物とどの人物の物語がどこまで繋がっているのかを明示してくれない。ゆえに、物語全体が我々の知る感触の「オチ」に向かっていくことはない。結果、お題を自分のスマホかPCから投げた観客は、終幕まで緊張感を負わされる。

長谷川さんは公演の告知で「言葉に責任を持たなければいけない昨今ですが、適当に楽しくやるので、適当に楽しんでくれたら幸いです」と書いているが、私はむしろ全員が責任を追う構造になっていると感じた。カタルシスのわかりやすい物語であれば創り手が責任を追うところ、こうどこへいくかわからない物語だと「演者」「シャーマン」「観客」の三者がイーブンに責任を追う。ここで言う長谷川さんの「適当」とは「雑でいい」という適当ではなく、本来の意味の「適切な」責任配分を指しているのではないか。あらゆるエンタメにおいて観客の自意識が肥大した現代、「見る者」と「見られる者」のニューノーマル的責任配分の提示とも思える。

オンライン視聴ならではの面白さは他にもあった。当然、投げられるコメントは公演によって違うのでセリフの内容が変わる「ランダムさ」が公演の魅力なのだが、自動生成される字幕の精度も公演によって違う。言ってないことを言ったことにされてしまうコミュニケーションの不確実性が、作品のテーマと合致して感じられ、はちゃめちゃな字幕からも目が離せなくなってしまった。

長谷川さんの創るものは制約が大きいほど面白いのではないかと思えた。

表現が自由になる一方、副作用的に制約が生まれる。そして今まさに我々が直面しているように、災害や疫病で直接的な制約が生まれることもある。

内側から制約のギリギリに肉薄して表現を創ると、その輪郭は時代の輪郭とぴったり重なる。

例えば今年の3月と8月現在で感染者数は落ち着いていないのに、エンタメの世界でのコロナ対策の基準はぬるりと変化した。そうした2020年の中でのめまぐるしい空気の変化を1年後、10年後、100年後に残すのはとても難しい。しかし、5月のクレオパオラさんの単独公演と7月の今回の長谷川さんの公演を比較すれば一目瞭然である。機動力とアイデアを武器に制約ギリギリに迫る表現の軌跡が歴史になっていく。




大島 育宙

1992年生まれ。東京大学法学部卒業、東京大学法科大学院在学中。YouTubeチャンネル「コンテンツ全部見東大生」で映画やドラマの評論を行う。お笑いコンビ「XXCLUB」のネタ作成担当。タイタン所属。



長谷川優貴プロデュース公演『口』解説と感想

https://note.com/hasenote/n/n4df5d071ebb8?magazine_key=m827322a4abba

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